「逃げるは恥だが役に立つ」心に残った問答集(1話〜5話)
1話
- 「結婚ってなんのメリットがあるんだろう」
結婚ってなんのメリットがあるんだろう。今まで自分一人で決められていたことが、双方の同意がなければできなくなる。面倒が増えるだけじゃないかな。
私と一緒にいるのが面倒なんですか。
君のことは好きだし、一緒にいる分には楽しい。
だったら。
じゃあ君はさ、なくても困らないものを、わざわざ買う?
- 「なぜ彼女は、懸命に働くのだろう」
誰にも見られてなくても、気付かれない努力だとしても、それでも頑張ることって大切だと思うんです。それがプロフェッショナル。私の仕事の流儀です。
- 「ならいっそ結婚しては」
網戸、網戸掃除しましたよね。
あ、すいません勝手に。
あ、そうじゃなくて。
土曜の朝、カーテンを開けたらいつもより部屋が明るくて、なんでだろうと思って。あ、網戸だ。網戸が綺麗なんだって気がついて。すごく気分が良くて。
ありがとうごさいました。
森山さんに家事お願いしてよかったなって思いました。できることなら、ずっと続けてもらいたかったです。
私もです。いっそ住み込みで働きたいくらいです。雇いませんか!?
流石に嫁入り前の女性を住込みというのは…
ならいっそ結婚しては!?結婚といっても就職という形の結婚というか、家事代行スタッフを雇う感覚の契約結婚というか!
- 「主婦の労働力を年収に換算すると」
それでもひたすらあの男の世話をしてきた3年間。なんだったの!?3年仕事したらキャリアが残る。でも主婦の3年間は離婚したらなにも残らない。
ひらりちゃんが残ったじゃないねー
この子の世話はいいの、いくらでもやる。
腹立つのはさー、旦那の稼ぎじゃ慰謝料も養育費だって払えないだろうし、結局私一人で育てなくちゃなんないってことよ。なんのキャリアも貯金だってないのに!
シングルマザーの貧困深刻だよねー
深刻よ誰が雇ってくれんのよ?
そういえば、主婦の労働力を年収に換算すると304.1万円になるらしいよ。
でも、結婚したら家事やっても給料もらえないよ。
こういうのは?家事労働力が欲しい男と家事が好きな女のマッチング。雇用主と労働者としての給料が発生する契約結婚!
いやないっしょ。だって夜はどうすんの。一つ屋根の下で。別料金?
いやしないし。好きじゃないとできないでしょ。
だったら好き同士結婚すれば。
…それ普通の結婚!
- 「それは贅沢なんだろうか」
私就職活動で全敗だったんです。大学卒業の時も大学院でてからもどっちも派遣先でも私ともう一人どっちかっていう局面でやっぱり選ばれなくて。
誰にも認めてもらえなくても自分は自分として頑張ればいいってわかっちゃいるんですけど、だから、津崎さんが網戸に気づいてくれたり家事をお願いしてよかったってもっと続けて欲しかったって言ってくれた時、パーってあ、これだって思っちゃって嬉しくなっちゃってあんなこと。
すいません突拍子も無いこと。うちの家系なんです父譲りで。忘れてください。
ーーーーー
誰かに、誰かに選んでほしい。
ここにいていいんだって認めて欲しい。
それは贅沢なんだろうか。
みんな誰かに必要とされたくて。
でもうまくいかなくて。いろんな気持ちをちょっとずつ諦めて泣きたい気持ちを笑い飛ばして。そうやって生きているのかもしれない。
- 「これは事実婚の提案です」
試算してみたんです。家賃水道光熱費等の生活費を折半した場合の収支、食事を作ってもらった場合と外食との比較、毎週家事代行スタッフを頼んだ時との比較、そしてOC法に基づいた専業主婦の年間無償労働時間は2199時間になりますが、それを年収に換算すると304.1万円。
そこから時給を算出し、1日7時間労働と考えた時の月給がこちら。そして生活費を差し引いた手取りがこちらで、健康手当や扶養手当を有効利用した場合の試算もしてみました。
これは事実婚の提案です。
事実婚…
戸籍はそのまま。つまり籍は入れずに住民票だけを移すという方法です。もちろん諸条件は話し合う必要がありますが、試算した結果、事実婚という形で森山さんをここに住まわせ、給与を支払い、主婦として雇用することは、僕にとっても有意義であるという結論に達しました。
もちろんどうするかは森山さん次第で…
やります!雇ってください!
2話
- 「逃げるのは恥。だけど、役に立つ」
父も母も想像以上にがっかりしたり喜んだりしてくれて結婚という言葉の重さをずしっと。今更ですが。
僕はむしろホッとしました。肩の荷が下りた。僕は父の望むような息子にはなれないので、たとえ真実じゃなかったとしても喜んでもらえたならいいと。両親を安心させられたという点においても今回の事は有意義でした。
よかったー。津崎さんが後悔していたらどうしようかと。嘘つかないといけないし重いことさせちゃってるかなって。周りを説得する自信がないから普通の結婚のふりをするとって逃げといえば、逃げというか。
逃げたっていいじゃないですか。ハンガリーにこういうことわざがあります。「逃げるのは恥。だけど、役に立つ」
役に立つ?
後ろ向きな選択だっていいじゃないか。恥ずかしい逃げ方だったとしても生き抜く事の方が大切で、その点においては、異論も反論も認めない。
逃げるのは恥だけど、役に立つ。
はい。
そうですね、逃げても生き抜きましょう。
- 「知らないって怖い」
男と見れば誰彼構わず襲いかかると思ってるんだよ。
その気のない相手に襲い掛かったら男女問わず犯罪ですよね。
だよねー。
いいよなー普通に愛を育める人は。
俺ストレートだけど、育んでませんよ。
育もうよ少しは。
ーーーーー
知らないって怖い。
僕はこれまで、どれだけの人をどれくらい傷つけてきたのだろう。
ひょっとしたらみくりさんだって、僕の考え無しの言動に傷ついたり言いたいけど言えない気持ちを隠していたりするのかもしれない。
ーーーーー
みくりさん。僕は夕べ反省しました。知らなかったじゃ済まされない事もあります。もっと周囲に目を配らないと。職場というものは、従業員だけの努力じゃままなりません。雇用する側も努力しないと。僕は雇用主としてみくりさんが働きやすい環境を提供したいと思っています。もし何か気になることがあったら遠慮せず何でも言ってください。
3話
- 「高齢童貞」
可能性はありますよね。未経験っていう。
Q高齢童貞をどう思いますか?
んーいんじゃないでしょうか。人それぞれだし
Q原因はなんだと思いますか?
それも人によりけりだとは思いますけど。最近だと、高学歴高収入で見た目も悪くないのにっていう人も多いみたいですね。そういう人はプライドが高いのかも。
Q選り好みをしていると?
というか、行かないんですよ自分からは。断られると傷つくから。
Q女性の場合は?
私の身内の場合ですけど、彼女は古風なところがあって、守りに守りすぎて49年って言ってましたね。もはや、脱却するタイミングを見失ったそうです。
- 「なぜだろう」
こういうところへ来ると、嘘ついたりいやしい心でいることを見透かされている気分になります。
この中では嘘がつけませんね。
似合いますよね。仏像とかお寺とか。しみじみとしっくり
都会的な、風見さんのような…かっこいいよなあ
かっこいいですねえ。私は、平匡さんが一番好きですけど。しみじみとしっくり落ち着いて。あ、好きって変な意味じゃなくて都会のキラキラより、渋い方が好きっていうか、すいません何を言っているのか。
ありがとうございます。僕は一生このまま、本当の結婚はせずに終わるので、もしみくりさんが誰かと結婚しても、週に何度かは家事代行に来てもらえたらいいなと、思います。
今のはきっと、従業員の私への最高の褒め言葉だ。
でもなぜだろう。それはそれで寂しいと思ってしまったこの気持ちは。この気持ちは。なぜなのー教えて、おじいさんーーー
4話
- 「働くときは下を見てはいけないと思います」
謝る必要はありません。
職なし家無しの危機から考えるとすごくいい環境で働かせてもらっているので。
働くときは下を見てはいけないと思います。抱え込まず、今後はもっと相談してください。
アメリカ人なら良かった。ハグできるじゃないですか。こういうとき!
嬉しい時や親愛の情を示す時、外国だとするじゃないですか。今すごくそうしたい気分です。
何を馬鹿な。
ここが日本で残念です。
すごく日本で良かったです。
- 「いっそ、手放してしまえばいい」
また壁が…
平匡さんは他の男性の影が見えるとすぐ壁を作る。おそらく自尊感情の低さゆえだ。自尊感情、selfesteem 自分自身に価値があると思える感覚。自尊感情の高い人は成功体験をより強く認識して自分をより肯定する。自尊感情が低い人は失敗体験をより強く認識して自分をより否定する。平匡さんはこと恋愛において自尊感情が全く満たされないでここまで来たんじゃなかろうか。
平匡さんって高校は男子校でしたか。
いえ共学です。
合コンに参加したことは。
なぜですか。
…なんとなく。
詮索するのも分析するのもやめてください。
ごめんなさい。
わずわらしい。ただの雇用主なのに、まるで、彼氏のいる女の子に片思いしているみたいだ。相手も自分の嫌いになる。こんな気持ちは不毛だ。
(風見「契約結婚ですよね?」)あの時もっとうまくごまかしていれば。あの時仕事の掛け持ちを引き止めていれば。
(みくり「私就職活動で全敗だったんです。やっぱり選ばれなくて。」)
あの時、同じだと思った。誰にも選ばれない、必要とされない、好意を持った相手に受け入れられたことがない、自分と同じだと。
こんな自分にも何かできるだろうか。
(これは事実婚の提案です)
いっそ、手放してしまえばいい。そうやってずっと平穏に生きてきたのだから。
- 「いいなあ、愛される人は。愛される人は、いいなあ」
風見さんと交代してもいいですよ。立場を。
風見さんの家に住民票を移して未届けの妻になって、うちには以前のように週一で通う。うちに通うのが大変であれば、僕はまた、別の家事代行業者に頼みます。
それは……、平匡さんはいんですか?それで。
みくりさんの自由意志です。
自由意志って、その言い方ずるくないですか!?
だったら、風見さんのところに行きます!
…そう言ったら引き止められることもなく、すんなりとそうなるんだろう。
いつもこうだ。どんなに取り繕っても私はすぐにボロを出す。嫌われて拒絶される。あの時だって…
(お前、小賢しいんだよの回想)
私は結構嫌われますよ。批評したり、分析したり、小賢しいんで。
僕はいいと思うけど。
小賢しいは否定しないー。
はい。そこが、面白い。好きですよ。周りの意見はどうでも。
逃げ込んでしまいたくなる。この人と一緒にいれば、自己嫌悪の呪いから逃れられるかもしれない。
ーーーーー
彼女が自分と同じだなんて、どうして思ったんだろう。僕と違って彼女は、元カレだっていただろうし、未来彼だっていくらでもできる。
なんてことはない。戻るだけだ。一人で暮らす、平穏な生活に。たまにくるジュウシマツを愛でる生活に。
いいなあ、愛される人は。愛される人は、いいなあ。
- 「私、恋人を作ろうと思うんです。」
この項目のことですが。
私、恋人を作ろうと思うんです。でもこの、恋愛対象者との交流は世間体を鑑み、周りに見つからないようにするって案外難しいんですよね。互いを気遣い極力その話をしないようにするっていうのもストレスが溜まると思います。今私、仕事も掛け持ちしてるし時間的なやりくりも面倒だし。それでも恋人を作るとなると、今の状況で最適な相手って平匡さんしかいないんです。
…はい?
平匡さん、私の恋人になってもらえませんか?
僕とみくりさんが恋人?タイミングのおかしな冗談ですか?
本気です。妄想でもなく、現実です。
考えたんです。平匡さんと付き合うなら周りに隠す必要もないし、不必要な気をつかうこともない。例えば、風見さんと付き合ったら、平匡さんに言えないことがさらに増えて、お互いにストレスが溜まる一方です。今のままじゃ気持ちが落ち着かないし、家の中もギクシャクするし。これが最適な解決方法だと思うんです。
そこに至る思考の流れが皆目見当がつきません。
平匡さんが嫌なら引き下がります。
これは平匡さんの自由意志です。
自由意志…
はい、どうしますか。
森山みくり、小賢しさフィールド全開!どうせ小賢しいのなら、小賢しさの全てをかけて平匡さんに正面から挑む!さあ、どうする津崎平匡!
5話
- 「私は、恋人の美味しいところだけが欲しいんです」
恋人とは、なろうとしてなるものなんでしょうか。
やってやれないことはないと思います。
みくりさんの恋人の定義とは?
一緒にご飯を食べたり…
食べてますし、暮らしてます。
どこか遊びに行ったり…
友達と行けばいいじゃないですか。恋人なんて特にいなくても困らないし、無理をしてまで作る必要はないと。
スキンシップはどうでしょう。嬉しい時にハグをしたり、疲れた時に甘えたり、よしよしと頭を撫でてもらったり。そういう癒し合いの関係が恋人なのでは。ありますよね、ああ疲れたーハグされたいなーって時。
…例えば、そうなったとして。それを職場と言えるのでしょうか。
もちろん、仕事は仕事としてきちんと区別します。甘えもなしです。
あくまでも、業務時間外に恋人タイムを設けるということです。
ハグをして癒しあう…
はい、それ以上は望みません。
そんなに癒されたいなら、こんな形式的なものじゃなくて、本当の恋人を作ればいいじゃないですか!
私は、恋人の美味しいところだけが欲しいんです!
- 「辛い時、味方だって言ってくれる人がいるだけで、救われます」
役所に出してきた、離婚届。それだけ。
親にも周りの人にも離婚するのすっごい反対されちゃってさ、子供いるのに何考えてるんだって旦那の浮気ぐらい水に流せって。でも私どうしても許せなくって。顔見るのも耐えられなくて。私間違ってるかな。心狭いのかな。この子のために私が我慢するべきだったのかな。浮気された私が悪いのかな。ひらり育てて、家のことして、頑張ったつもりだけど、何がいけなかったんだろう。
いけなくない。やっさんよくやったよ。
私この子不幸にしちゃうのかな。
そんなことない。ひらりちゃんだってやっさんが笑ってる方が嬉しいよ。
やっさん間違ってない。私はやっさんの味方だからね。誰がなんと言おうと、やっさんの味方だからね!
子供がいると人生の選択が自分だけのものじゃ無くなるから難しいですね。でも、相手の顔も見るのも耐えられないまでいっちゃったら、子供の精神衛生上も良くないと思うし、離婚して良かったんです。
しましたか、離婚。
はい。すいません。私さっきと逆のこと言ってます。
うちの母が離婚しなかったのは、子供のためだけじゃなかったかもしれません。さっき電話で、ピクニックの話をしました。
地獄の?
地獄の帰りに、瓦そばを食べたそうです。
僕にとっては最悪な思い出ですが、母にとっては生涯で一番美味しいお蕎麦だったそうです。僕の知らない物語が、他にもあるのかもしれない。
やっさんと旦那さんには、そういう思い出が足りなかったのかなあ。二人でも幸せになってほしいなあ。
私はやっさんの味方だよって、それしか言えませんでした。
辛い時、味方だって言ってくれる人がいるだけで、救われますよ。そんな人、いたことないや。あ、沼田さん。何か勘違いしている気がしてならないんですが。
- 「僕たちの罪悪感は僕たちで背負うしかないんじゃないでしょうか」
ゆりちゃんに正直に話す。ゆりちゃんを騙そうとあれこれしようとしてるのってひどいですよね。
でも、ゆりさんに正直に話してしまったら、みくりさんは楽になるかもしれませんが、今度はゆりさんがつらいんじゃないですか。ゆりさんが本当のこと知ったら、妹のさくらさんに嘘をつかなきゃいけなるし、それはつまり、ゆりさんに罪悪感を肩代わりさせるということです。
僕たちの罪悪感は僕たちで背負うしかないんじゃないでしょうか。
私たちで。
はい、僕たち二人で。
平匡さん。ハグしていいですか。
はい?
今の感謝の気持ちを込めて。
今日は火曜日ではないですが。
前借りでお願いします。
はい。
…平匡さんになにかあったら、私は平匡さんの味方です。
(次に続く)