「逃げるは恥だが役に立つ」心に残った問答集(10話〜11話最終回)
10話
- 「確かに、籍を入れていないということは、責任を負っていないという事になりますね」
M社の買収の余波を受けてうちの売り上げの4割が失われる。経営のスリム化のために、リストラが必要だ。
それが、僕ですか。
誤解しないでほしい。 スリーアイで1番優秀なエンジニアは津崎くんだ。その分年俸も高い。開発のほとんどが手を引くとなると宝の持ち腐れ、分不相応な買い物だ。それともう1つ。津崎くん、結婚してなかったんだね。
聞いちゃんたんだよ、津崎くんとみくりさんが籍を入れてないってこと。社長に頼んで、総務にも確認した。
法を犯したわけでは。
わかってる。うちの会社は事実婚に対しても、社会保険の対象として許可しているからいいんだ。ただ、2人が単なる雇用関係だとすると、リストラする社員を選定する上で選びやすくなる。人1人雇う経済的余裕。日野くんのように養わなきゃいけない妻子もいない。
…確かに、籍を入れていないということは、責任を負っていないという事になりますね…
- 「やりがい搾取」
森山さん、手伝ってくれないかな?
ちょっと待ってください。私に手伝えっていうのはボランティアで、ノーギャラでやれってことですか?
俺たちだってノーギャラだよ。
そりゃあ皆さんは自分たちの商店街だから。
いいですか皆さん。人の善意につけ込んで労働力をタダで使おうとする。
それは「搾取」です。
例えば、友達だから、勉強になるから、これもあなたのためだから、などと言って正当な賃金を払わない!このような「やりがい搾取」を見過ごしてはいけません!
私森山みくりは、「やりがいの搾取」に、断固として反対します!
よしわかった。…日給3000円で!
安い…
よろしくお願いします!
- 「それは、好きの「搾取」です」
今日ここへ来たのは、これからのことを話すためです。サイズがわからなかったので指輪はまだないんですが。
…みくりさん、きちんと入籍して、結婚しましょう。
…平匡さんはそのつもりないのかと。
自分には、起こりえない話だと思ってました。ですが、みくりさんと出会って、変わったんです。
試算してみたんです。結婚すれば、雇用契約は必要なくなります。今までみくりさんに支払っていた給与分が浮いて、生活費ないしは貯蓄に回すことができます。
結婚するのとしないのとでは、3年後、5年後をシュミレートすると、このくらい差が出ます。
これだけあれば、中古の家を買ったり、将来的に子供が1人ないし2人できてもなんとかなります。その場合のデータがこちらです。
つまり、結婚した方がお互いに有意義であるという結論に達しました。つきましては…
待ってください。
家とか子供とか、そういう未来予想図に行く前に、どうして籍を入れようと思ったんですか?きっかけです。
きっかけは、リストラです。
もちろん、次の仕事が決まってからきちんと言うつもりでした。
…リストラされたから、プロポーズ?
あ、だけではなく、結婚が最も合理的だと。
結婚すれば給料を払わずに私をタダで使えるから合理的。そういうことですよね?
…そういうことに?
なってます!
みくりさんは、僕と結婚したくは、ないということでしょうか?僕のことが、好きではないということですか?
それは、好きの「搾取」です!
好きならば、愛があれば、なんだってできるだろうって、そんなことでいいんでしょうか。私森山みくりは、「愛情の搾取」に断固として反対します。
11話(最終回)
- 「主婦の労働の対価について」
似てる!青空市と結婚。その心は…?
お話があります。
もし、このあいだのことなら、無理強いするつもりは。
ずっと考えていたんです。主婦の労働の対価について。それが、最低賃金で働くことで見えてきたんです。今私、副業しているんです。
やっさんの商店街の青空市の手伝いを頼まれて。時給は930円。横浜市の最低賃金です。黙ってて、ごめんなさい。
…なぜ黙って?
短時間の軽いお手伝いのつもりだったし、周りが男の人ばっかりで平匡さん嫌がるかなって。
かなり、衝撃的ですが、僕もリストラを黙っていたのでおあいこです。…それで?
自給2000円なら耐えられるって仕事も、最低賃金では耐えられないって場合があると思うんです。
金額以上の働きを求められてもってことでしょうか?
はい、そこがモヤモヤポイントでした。
つまり、こう言うことです。
「主婦の労働の対価=主婦の生活費=最低賃金」
結婚して専業主婦になると言うことは、生活費の保証、つまり最低賃金を受け取ることとイコールだと思うんです。でも、最低賃金はあくまで最低賃金、食わせてやっているんだから黙って働けと言われても限界があります。
でも、そんなに横暴な雇用主ばかりじゃないでしょう。
はい、良い雇用主のもとでストレスもトラブルもなく働けるのであれば、最低賃金でもいいのかもしれません。
つまり、雇用主次第であると。
一般企業なら、人が大勢いて人事異動もあります。昇給や賞与など、客観的に従業員を評価するシステムもある。でも夫婦の場合、一対一なんです。
夫が評価しなければ、妻は誰からも評価されない。つまり、現状の専業主婦の労働の対価は、この基本給プラス雇用主の評価(愛情)ということになります。
「主婦の労働の対価=(主婦の生活費=最低賃金) + 雇用主の評価(愛情)」
しかし、愛情は数値化できません。
そうなんです!極めて不安定な要素なんです。雇用主の気まぐれで、いつでもゼロになりうる。
その場合、最低賃金労働が続くというわけですね。
労働時間の上限もないんです。下手をすれば、ブラック企業になりかねません。従業員としてこの労働環境でやっていけるのかどうか、不安があります。
プロポーズは、嬉しかったんです。平匡さんと結婚したくないとかそういうことじゃなくて…
そもそも、従業員なんでしょうか?夫か雇用主で妻が従業員。そこからして、間違っているのでは?
主婦も家庭を支える立派な職業である。そう考えれば、夫も妻も共同経営責任者。この視点で僕たちの関係を再構築しませんか。
雇用関係ではない新たなるシステムの再構築です。愛情があればシステムは必要ないとも思いましたが、そんな簡単なことではなかったようです。うまくいくかは分かりませんが…
やります。やらせてください!
やりましょう。共同経営責任者。
なりましょう。CEO!
- 「私は自分が嫌いだ」
今日の私は、最低だった。余裕がないと途端に本性が顔を出す。生意気で、偉そうで、小賢しいみくりが。
私は自分が嫌いだ。
自尊感情が低いのは、私の方だ。平匡さんが愛したのは、家事を完璧にこなすいつも笑顔で優しい理想の妻で、お米1つでひどい態度をとる女じゃない。
選ばれたくて、認めて欲しくて。なのに、なりたい自分からどんどん遠ざかる。
- 「私が虚しさを感じることがあるとすれば」
相席いいですか?
他にも空いてる席あるみたいだけど?
お姉さんと風見さんってどういう関係なんですか?17歳も違うのに恋愛対象ってことはないですよね?
歳までよくご存知で。
50にもなって若い男に色目使うなんて、虚しくなりませんか?
訂正箇所が多すぎてどこから赤を入れたらいいものか。
正確には49歳。でも周りから見れば同じです。アンチエイジングにお金を出す女はいるけど、老いを進んで買う女はいない。
あなたは随分と若さに価値を見出しているのね。
お姉さんの半分の歳なので。
私が虚しさを感じることがあるとすれば、あなたと同じように感じている女性がこの国にはたっくさんいるということ。今あなたが価値がないと切り捨てたものは、この先あなたが向かっていく未来でもあるのよ。
自分がバカにしていたものに自分がなる。それって辛いんじゃないかな。私たちの周りにはね、たくさんの呪いがあるの。あなたが感じているのもその1つ。
自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい。
- 「今更ですよ」
分担の変更から1週間。率直な感想は。
じゃあ僕から。僕が思ったのは分担って結構厄介だなということです。分担仕事を相手ができていないとマイナスに感じる。一方できている場合でも、担当なんだしやって当然と思ってしまって感謝の気持ちが持てない。もしかすると、相手を積極的に評価するシステムが必要で…
食事。私の担当なのに、満足に作れてなくてごめんなさい。
いや、せめているわけでは。
いっそ、役割分担をやめましょうか。自分のことは自分でやるんです。1人でもご飯を作ったり掃除したりしますよね。
でも、それだと、共通スペースをどちらも掃除しない場合が。
じゃあ家事の全部私がやります。でもそれは、ボランティアです。
あくまでボランティアなので、私が自分でああ今日はもうご飯作りたくないって思ったら作らないし今日は掃除したくないって思ったら掃除しません。ボランティアだから、ご飯ないんですかとか言わないで欲しいし部屋が汚いですとか言わないでほしい。だってボランティアだから!仕事じゃないから!
みくりさん、話の方向性が…
…やめるなら今です。平匡さんだって面倒ですよねこんな生活。私と暮らす前みたいに外部の家事代行業者に週に1度頼む程度の給料ならあるはずです。1人なら。
主婦の労働の対価がどうとか、小賢しいこと言わないで、平匡さんのプロポーズを素直に喜んでくれる女性はたくさんいます。
それが普通です。
面倒を、背負う必要はありません。
ーーーーー
みくりさんが閉じたシャッターは、いつか、僕が閉じたものと同じかもしれない。だとしたら、僕は開け方を知っている。何度も何度も呆れるほど、見捨てずにノックしてくれたのは、他の誰でもないみくりさんだ。
お仕事中すみません。話してもいいですか。
面倒を避けて避けて、極限まで避け続けたら、歩くのも食べるのも面倒になって、息をするのも面倒になって、限りなく死に近づくんじゃないでしょうか。
生きていくのって面倒臭いんです。それは1人でも2人でも同じで、それぞれ別の面倒臭さがあって、どっちにしても面倒くさいんだったら、一緒にいるのも手じゃないでしょうか。
話し合ったり、無理な時は時間をおいたり、騙し騙しでも、なんとかやっていけないでしょうか。やってやれないことはないんじゃないでしょうか。
みくりさんは自分のことを普通じゃないと言ったけど、僕からしたら、今更です。とっくに知ってました。大したことじゃありません。
世間の常識からすれば、僕たちは最初っから普通じゃなかった。今更ですよ。
青空市、楽しみにしてます。…おやすみなさい。
うまくいかない時、待っていてくれる人、信じてくれる人、見失っちゃいけない。
立て直そう、一つ一つ。
立て直そう、ゆっくりでも。
- 「私たちを縛るすべてのものから、目に見えない小さな痛みから、いつの日か解き放たれて、時に泣いても、笑って行けますように」
すいません。こんな仕事まで
いえ、みくりさん人気者ですね。
ここに来るまで長〜い道のりが。
また、やりたいですか?
うーん条件次第ですね。
交渉は大事です。
発見はありました。派遣社員だった時、よく上司にあれこれ提案してたんです。こうした方が効率的とか、なぜこうしないんですかとか。でも向こうは、そんなの求めてなくて。うざがられて切られるっていう。笑
私の小賢しさはどこにいっても嫌われるんだなーって思ってたけど、青空市の仕事ではむしろ喜んでもらえて。小賢しいからできる仕事もあるのかもしれません。
小賢しいってなんですか?
言葉の意味はわかります。小賢しいって相手を下に見ている言葉でしょう。僕はみくりさんを下に見たことはないし、小賢しいなんて思ったこと、一度ありません。
ありがとう。
…なんのありがとうで?
大好き。
私たちを縛るすべてのものから、目に見えない小さな痛みから、いつの日か解き放たれて、時に泣いても、笑って行けますように。
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これからどうしましょう。
なんでもいい気がしてきました。籍を入れても入れなくても。
私が本格的に就職先を探したらどうします?
それに合わせてライフスタイルを変えていくしかありません。模索は続きます。
そうですね。続けていきましょう。
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たくさんの道の中から、思い通りの道を選べたり選べなかったり。
どのみちも面倒くさい日々だけど。
どのみちも愛おしい日もあって。
逃げてしまう日があっても、
深呼吸して別の道を探して、また戻って。
良い日も悪い日も、いつだってまた火曜日から始めよう。
(終)
・あとがき
はー長かった。1話から全部でなんと16000字!!
時にはハマって夜中の3時過ぎまでタイピングしてその日の仕事がきつい日も。笑
原作の海野つなみさんのコメントで、エチュード(即興劇)みたいに書いているというのが、自分が好きなポイントかなとしっくり来ました。
どうなるかわからないのが楽しみでした。あとやっぱりガッキー可愛い。
去年これをドラマで見たとき、心のどこかに引っかかって、それが今の仕事について考えるきっかけになって、転職活動するようになって転職にまで至ってしまいました。
あくまできっかけの一つではありますが、心理学を学んでいたり、SEやってたり、26歳という年齢だったり、横浜という場所だったり、色々共通点が多すぎて感情移入しちゃいましたかね。笑
何かを得られたような気はしますが、それをどう形にするかはこれからの自分次第かな。
ま、なんにせよ、こうして文字に起こすことで、今後もすぐ振り返られるようにできるので、よかったかなと思います。
過去に女王の教室もまとめたのでよかったらぜひ。
それでは。